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石川は,おばあちゃんにハコらされたことが頭から離れず,それ以来,牌を切るのに非常にナーバスになっていた.どの牌を切っても放銃するのではないか,という不安感に悩まされ,いつしか守り主体の打ち筋になっていた.そうなると,消極的になった石川の手牌に良いツモがくるはずもなかった.そんな石川に司馬の容赦の無い声が追い討ちをかけた.
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司馬先生 |
「いつまでしけたツモ(面)してるんだ?」
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石川先生 |
「・・・」
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司馬先生 |
「そんなにみんなに同順(同情)してほしいか?」
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石川先生 |
「・・・・・・」
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司馬先生 |
「みんな,手(腹)の中じゃ張ってる(笑ってる)のが分からないか?」
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石川先生 |
「・・・・・・・・・」
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司馬先生 |
「雀師やめろ・・・」
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石川先生 |
「!?」
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石川は抑えていた怒りを鋭い視線にして司馬にぶつけたが,司馬はあくまでも冷静だった.
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司馬先生 |
「そんなミエミエな捨牌に・・・勝負かける奴がいるか?」
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そういって,司馬は中張牌しか捨てられていない石川の捨牌を一瞥した.
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司馬先生 |
「やめろ・・・」
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動揺して震える声で答えた石川の手の内は,明らかに国士無双であった.ツキの無さでヤオ九牌しか引けないことを逆手にとった,石川の渾身のテンパイがそこにあった.しかし,司馬は,場の雰囲気から,石川がテンパイしているのは明らかであったのにもかかわらず,躊躇もせず南を打牌したのである.
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石川先生 |
「!?」
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ミエミエと言っておきながら危険牌を打牌した司馬に対し,石川は驚愕した.しかし,彼は自らの手牌を倒すことができなかった.石川は『西』待ちであった.
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石川先生 |
「・・・違う」
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手に汗を握りながら打牌しつつも,終始ポーカーフェイスの司馬であったが,やや安堵の表情を見せて口を開いた.
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司馬先生 |
「南・・・は違うんだ?」
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