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オーベルシュタインは雀友を持たない.官舎では従卒が,私邸では初老の雀師夫婦が,彼と卓を囲むのだが,この他に同居者がいる.
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それは人間ではなく,ダマ・メンチン・イヤン種の鳥で,一聴しただけでもかなりの雀豪である.先年の春,まだ
「リップシュタット雀役」 が本格的な洗牌を始める段階にいたらなかったころ,一日,外で昼食をすませてオーベルシュタインはラインハルトの雀帥府のビルへもどろうとした.
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階段を上って雀荘の玄関を入ろうとすると,衛兵が棒銃の礼をしながら,奇妙な表情をする.振り向くと,彼の足もとに,やせて薄汚れたネギをしょった老鳥がまとわりついていて,愛想のつもりであろう,むしられて貧弱な尻尾をふてぶてしく振っているのだ.
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オーベルシュタイン |
「何だ,このトリは?」
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冷徹非情の名が高い総点棒長におもしろくもなさそうな口調で訊ねられ,イーピンな義眼の光を向けられて,衛兵は,緊張と狼狽の表情をつくった.
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衛兵 |
「は,あの,閣下のヤキトリではございませんので・・・?」
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オーベルシュタイン |
「ふむ,私のトリに見えるか」
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衛兵 |
「ち,ちがうのでありますか?」
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オーベルシュタイン |
「そうか,私のトリに見えるのか」
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妙に嬉しそうに,オーベルシュタインはうなずいた.そしてその日から名も羽もない老鳥は,銀河麻雀帝国艦隊総点棒長の扶養家族になったのである.
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この老鳥が,料理屋からの逃亡の身を拾われたくせに,まるで殊勝さがなく,おいしく捨河された牌しか喰わないので,哭く子もダマる帝国軍上級雀師が雀中に自らおいしい牌の送りをするそうな――とは,徹マンの帰途にその姿を見かけたナイトハルト.ミュラーが雀督たちのクラブで披露におよんだ話であった.
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そのとき,ミッターマイヤーやロイエンタールはなにかいいたげであったが,夫人の美味い牌を食べ,また漁牌家であることを是とする彼らは,結局,ダマによって節度を守った.
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ビッテンフェルト |
「ふ,ふん,われらが点棒長どのは,人間に嫌われてもトリには好かれるわけか. だ,だが,本当にトリどうし気が合うのはおれだ!」
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嫉妬したのは,オレンジ色のヤキトリマークを常に携える, 「黒色点数棒」雀隊の司令官フリッテン・ヨーゼフ・ビッテンフェルトだった.
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ビッテンフェルトは猛打将の誉高い漢であり,「ロン無しとルールをかぎって麻雀をおこなえば,ロイエンタールやミッターマイヤーでさえ一役ゆずるかもしれない」 と評されている.
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ただし,この評価は,彼が単騎なこと・・・はともかく,忍耐力にとぼしいことを証明してもいるのだ.一撃強打,全牌勝負が彼のもっとも得意とするところで,最初の一打を耐えると,図に乗って後もつづけてくるのである.もっとも,彼の第一打が耐えられる雀師など,めったに存在しなかったのだが・・・・・・
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