[ HOME | 雀英伝トップ | 銀河雀雄伝説 前ページ 次ページ ]


銀河雄伝説 Vol.8



ユリアン:「牌の積み方ひとつです!」

ヤン:「そんなイカサマ,誰にならった!?」



河雀史概略 @ No.071
Vol.01-p.007 by wahei


 ・・・・・・西暦2801年,銀河雀師連邦の成立を宣言した人類は,同年を宇宙麻雀暦1年と改元し,銀河系の深奥部と辺境部に向かって麻雀人口のあくなき膨張を開始した.
 人類をして高役点棒取得を可能ならしめた三美神――亜空間打法と二翻制御と槓ドラ制御の技術――は日日に粧いを新たにし,人類は未知の翻数を目指して雀荘を駆り,猛者の群れつどう雀荘のドアを叩いて廻った.
「高く,さらに高く!」
 それがその時代の雀師の合言葉であった.

 覚えたての雀師のバイオリズムはあきらかな高揚期にあった.新米雀師は不要牌をノータイムで打牌し,情熱を持って自らの手役だけに取り組んだ.放銃に直面しても,彼らは悲壮感とともに自らを反省することなく,陽気に運のせいにしていった.当時の新米雀師はあるいは救いがたい楽天主義者の集団として正雀師にカモられていったのである.
 甘い打牌と放銃牌にあふれた黄金時代!

 とはいっても,いくつかの傷がなかったわけではない.宇宙海賊のイカサマであった.麻雀連邦は本腰を入れて宇宙海賊の一掃に乗り出し,M・主婦ロン,C・ウッドらの諸雀師の活躍によって,二半荘後にはほぼその目的を達成した.もっともそれは容易ではなかった.鬼上家として知られたウッド雀師の採譜表のコメント欄の一節は次のごとくである.
「・・・・・・私は対面の有能な雀師,下家の哭雀師,この両者に対し同時に牌を絞らねばならなかった.しかも私自身ですら絞りすぎでテンパイ形にすらできなかった」
 ウッド雀師は麻雀教会の役員に転じてからも,『鳴かせてくれない頑固おやじ』として,汚職雀師や起家との悪戦苦闘を余儀なくされたものだ.

 やがて数千回以上の半荘を過ぎると,雀師達の心の中で疲労と倦怠が希望と野心を制するようになった.順子がチーに,対子がポン,暗子がミンカン,それぞれ取って代わった.面前的手役作りは自制能力を失い,役牌や哭きのみに食指を動かす堕落麻雀と化した.
 必然的に辺チャン待ちが発生しやすくなる純チャン開発計画は事半ばにして放棄され,高めテンパイが豊かな可能性を残したまま見捨てられた.雀師達は回わし打ちの価値観を見失い,速リーと役牌,食いタンにふけった.早アガリが激増し,それに反比例してアガリ翻数は低下した.面前を軽視し,ピンフを嘲笑する傾向は深まる一方だった.

 麻雀社会の病状は抜本的な治療を必要とする段階に達していると,多くの者は認識していた.しかし,彼らの大部分は,すでに社会の荒波に身を投じており,その病を治療する手段を模索する根気と暇がなく,忍耐を必要とする長期療法を拒まざるを得なかった.それどころか,彼らは悪化の病原体に侵されることになる.それは『接待麻雀』という名のウイルスであった.
 かくして,ルドルフ・フォン・ゴールデンバップの登場する土壌がはぐくまれた.

(つづく)

寥の思い A No.072
Vol.07-p.038 by wahei


 ナイトハルト・ミュラーが小首をかしげた.

ミュラー 「・・・一連の騒ぎの原因となった噂,あれの真偽はどうなのです? メルカッツ提督がまた役満テンパイをしておられるという・・・・・・」

 帝国雀師たちはたがいの顔に視線を投じあった.ミュラーの言うがごとく,レンネンカンプがヤンの危険牌即切り禁止を雀師同盟に強要し,恐慌をおこした雀師同盟をしてベタオリさせた契機は,バーミリオン雀荘で歴戦の役満雀師だと公言されているメルカッツ雀師の手牌に関する噂だったのだ.

ファーレンハイト 「こうなると,テンパっていると見るべきであろうな・・・」

 アーダベルト・フォン・ファーレンハイト上級雀師が,あわい水色の瞳を鋭く光らせている.メルカッツ雀師と彼は旧知の仲であり,共に卓を囲んだ仲でもある.リップシュタット雀荘の戦いで共にハコった際,メルカッツは副官のすすめで自由雀師同盟へ亡命し,ハコ下となったファーレンハイトは負け分を払わされることなくラインハルトのもとに迎えられたのである.

ファーレンハイト 「いまや,おれとあのお人では,囲む卓が異なる.たかが二、三半荘の間によくも順位が変転したものだ」

 それほど感傷深くない性格だが,メルカッツ雀師の一発逆転を見やる前に細々と点棒を貯めていた自分の過去の打ち方をかえりみれば,平然としていられないものがある. この打ち筋の違いがどのような帰結をむかえるか,それを見とどけるまではなかなか今更打ち方を変えられないな,と,ファーレンハイトは場に切られた役牌を静かに哭いた・・・・・・


 このとき,みかげ石の雀荘にいるラインハルトの幕僚雀師は雀帥三名,上級雀師四名だけであった.士官学校時代の若かりしころ開催された24時間耐久リップシュタット杯争奪麻雀大会直後にくらべると,キルヒアイス,ケンプ,レンネンカンプの三名が体力低下により夢の中へ去り,メックリンガー,ケスラー,シュタインメッツ,ルッツの四名は地方転勤により今回は参加できず,ワーレンにいたっては漫画熟読中である.

 地元に残っている者たちとはいくらか場を囲む機会があるとしても,ラインハルトの雀師幕僚の数が半減していることに気づくと,歴戦の雀師たちも一瞬,『自分たちはこのままでよいのか?』と,あせりにも似た寂寥の思いにうたれた.

ビッテンフェルト 「さびしくなったものだ」

 つねに最前線に身をおき麻雀を打ち続けているわりには,なかなか上手くならないオレンジ色のヤキトリマークをつねに携える猛打将,ビッテンフェルトは軽く頭を振ってつぶやいた.その場にいる自称永遠の雀師たちも,彼の発した事実にしみじみとうなずいたのであった・・・・・・


に斃れ (1.5) No.073
Vol.09-p.196 by wahei


 卓に捨てられた牌の意味をミッターマイヤーはとっさに把握しかねた.だが,傍受した通信が混乱の中で 『ドラ切り者!』 という語を発するにおよんで,すべてを理解した.『自風ウォルフ』 の若々しい顔は憤激のために紅潮した.雀友と全恥全悩をつくして戦うこの超光速通信麻雀の場に,これほど醜悪な一局が展開することを,彼は想定していなかったのである.

 ・・・グリルパルツァーの背信は,この半荘を華麗な色彩で描いた雀史画に,黒い大きな染みをつけることになった.これまで彼はルールにおいても気配りにおいても他家から非難されることは稀であったし,採譜者としても大成を期待されていた. ドラを大切にするというロイエンタールの信条をよく守り,ウォルフガング・ミッターマイヤーも,弟子のバイエルラインに対して,決め打ちだけでは良い雀師になれない,グリルパルツァーのように待ちの広い麻雀を見習うように,と,お説教したことがあるほどだ.

 そんなグリルパルツァーが2順目にしてドラを叩ききったのである.牌を横にして・・・

 極彩色の混乱の中で,ロイエンタールの字名ドラステンの一打に視線が集中し,気力砲の一打が1時上方向から打ち込まれた.『ドラステン』は,その一発を回避した.だが,回避した対面から飛来した一声は『ドラステン』の通信スピーカーの膜を突き破って蝸牛殻をゆさぶった.

下家の雀師 「ロン! 清一,一気通貫,ドラ3!」

 ロイエンタールの視界は上下に,ついで首は左右に激しく振動し,三倍満によって上がった下家のオレンジ色のヤキトリが消滅するのを見た.ダマ三倍満の直撃のなかで,士気が倒れかかったが,ロイエンタールの片脚は半歩,棺桶から抜け出していた.

 視界と聴覚が混乱するなかで,自分にむけてモニター上の虚像とも実像ともつかぬ点棒請求の手が伸びてくるのをロイエンタールは黒と發の瞳に映しだした.グリルパルツァーがドラを切っていなければ,あるいは動揺せずに回避するのは困難ではなかったであろう.だが,卓絶した判断力も,打牌能力もわずかに所有者の読みを裏切った.

 打牌が,二萬が,高目となって一通を貫いた.下家のカンチャンに,ロイエンタールの打牌が突きささり,それがもたらす上がり形は一萬から九萬まで突き抜けていた.司令官が一気通貫で串刺しにされた姿は,共に卓を囲むレッケンドルフには煙にいぶされたヤキトリに見えて仕方がなかった.

レッケンドルフ 「閣下!」

ロイエンタール 「騒ぐな,放銃したのはおれだ・・・卿にな!」

 ロイエンタールは,このようなときだからこそ,片手でわしづかみにした点棒をな げつけた・・・


心を言っていいのだぞ No.074
Vol.01-p.086 by wahei


アンネローゼ 「ラインハルトが哭いてばかりでさぞ迷惑をかけているのでしょうね,ジーク」

キルヒアイス 「・・・・・・いえ,そのような」

ラインハルト 「一牌もツモっていないのだろ? 本心を言っていいのだぞ」

アンネローゼ 「ラインハルト,だめよ,手が進んでいないジークをからかっては.そうそう,シャボトイトイ子爵夫人からカンさせていただいたおいしい緑色竹林牌(カンツローソ)があるの.カンドラになるはずだから表示牌をめくってくれないかしら? 麻雀帝国元帥閣下に雑用を頼んで悪いけど」

ラインハルト 「姉上こそ私をからかうんですね.ええ,何枚でもめくりますとも」

 気軽にラインハルトはカンドラ表示牌を裏返すと,用をたしに行くと言って席を立った.

 後にはアンネローゼとキルヒアイスが残った.アンネローゼは弟の雀友に優しい微笑を向けた.

アンネローゼ 「ジーク,弟がいつもお世話になっていますね」

キルヒアイス 「とんでもありません,哭きやすい牌を一方的に打牌しているのは私です.それに貴族雀師でもない私がこのような卓を囲ませていただけるなど,身にあまると思っております」

アンネローゼ 「・・・・・・もうテンパイでしょう? 背中が透けていますよ.おめでとう」

キルヒアイス 「あっ・・・ありがとうございます」

 表情を隠し切れなかった己の甘さをキルヒアイスは自覚した.

アンネローゼ 「弟は符計算を把握していないし,あるいは本人も気づいていない役の数え忘れもあるかもしれないから,ジーク,あなたを本当に頼りにしています.どうか,これからも弟のことをお願いするわね」

キルヒアイス 「恐縮です,私などが」

アンネローゼ 「ジーク,あなたはもっと積極的な麻雀をすべきですよ.弟には強運があります.たぶん他の人間に言わせれば『凶運』が.でも,弟はあなたほど麻雀のルールに強くありません.自分のドラ爆におぼれて『役なしドラのみ』でアガろうとする素人ような,そんなところがあります.これは弟が牌を握り始めたときから知っている私だから言えることです」

キルヒアイス 「アンネローゼさま・・・・・・」

アンネローゼ 「どうか,ジーク,お願いします.ラインハルトが役無しチョンボをすることのないよう見守ってやって.先ほどみたいにわたしが打牌する前に表示牌をめくろうとしたら,もしそんなきざしが見えたらその手をつかんでやって.弟はあなたの忠告なら受け入れるでしょう.もしあなたの言うこともきかなくなったら・・・・・・そのときは弟も終わりです・・・ハコです.トビです.チョンボです.どんなにドラ爆があったとしても,それにともなう腕がなかったのだと自らの点棒をもって証明することになるでしょう」

 アンネローゼの美貌から,すでに微笑は消え去っていた.弟のそれより濃いサファイア色の瞳は玄人の研ぎ澄まされた危険な眼光になっている.

 見えざる威圧感が心の上を滑って,この上ない恐怖をキルヒアイスに与えた.そうだ,いまは10年前ではないのだ.ラインハルトと自分は待ちの雀師ではなく,アンネローゼも家庭的な一雀師ではない.雀帝の腹心と帝国雀帥とその副官.賭け麻雀の芳香と腐臭を同時に嗅ぐ立場にいる三人の雀師・・・・・・.

キルヒアイス 「わっ・・・私にできることでしたら何でもいたします.アンネローゼさま」

 キルヒアイスの声は,動揺を抑制しようとする主人の意思にかろうじてしたがっていた.

キルヒアイス 「ラインハルトさまに対する私の忠誠心を信じてください.決してアンネローゼさまのお心に背くような打牌は致しません」

アンネローゼ 「ありがとう,ジーク,ごめんなさいね,脅しみたいなことばかりして.でもあなた以外に絶対服従・・・いえ,頼る人はわたしにもいません.どうかゆるして下さいね」

 わたしはあなたたちにアガってほしいのです――胸中でキルヒアイスは呟いた.10年前,貴女に 「弟と卓を囲んでやって」 と言われた瞬間から,ずっとそうなのです・・・・・・. 

 10年前! ふたたびキルヒアイスの心は痛む.

 10年前に自分に今の麻雀の腕があれば,アンネローゼを決して雀帝の手などに渡しはしなかった.万難を排して,姉妹をつれ,多分,自由雀師同盟に逃亡していただろう.いまごろは同盟軍の雀師にでもなっていたかもしれない.

 その当時,自分には流れを読む能力もなく,自分自身の役すらはっきり把握できていなかった.いまはそうではない.だが,10年前以上に,ロンができなくなってしまった.ツモ運は良くなっているのに・・・・・・人は,雀師はなぜ,狙う役にとってもっとも必要なとき,それにふさわしいツモをすることができなにのだろう.

ラインハルト 「・・・・・・もっと使いやすい牌をきっていてくれればいいのに」

 その声が,ラインハルトのもどって来たことを告げた.ラインハルトはアンネローゼの捨てた牌を不平を言いながらも哭くと,迷うことなくソウズを打牌した.

アンネローゼ 「ロン,ご愁傷さま.哭いて飛び出る当たり牌ね.でも食い下げたけど翻数は結構あってよ.役を数えるわね.ええっと,清一,トイトイ,三暗刻,ドラ4,あら? 数え役満に・・・・・・」

 このような強気の麻雀を打つアンネローゼと卓を囲む時間を,わずかでも持てたことを幸福に思うべきなのだ.キルヒアイスは自分の気の優しさをあのように直さなければ,とそう言い聞かせた.実の弟からなんの躊躇もなく役満を,しかも四暗刻を崩しての数え役満をアガれるアンネローゼをうらやましく思わなければならないのだ・・・・・・


の国は自由の国です No.075
Vol.01-p.093 by wahei


トリューニヒト 「私はあえて言おう.銀河麻雀帝国店の接待的放縦主義を打倒すべきこの聖戦に反対するものは,すべて誇りを害う者である.誇り高き麻雀同盟店の雀師たる資格を持たぬ者である.確実なアガリ役と,それを保証するリーチ体制を守るため,ノミ手を恐れず打つ者だけが,真の同盟雀師なのだ.その一発を消すための卑劣カンは雀霊に恥じよ! この店は吾々の先客の負け分によって建てられた.吾々はアガリの喜びを知っている.吾々の先客が流局をもって,安手親流しをもって非難を買ったことを知っている.この偉大なアガリを持つ吾々の一号店! 守るに値する唯一の萬点棒を守るために,吾々はリーチをして戦おうではないか.戦わん,いざ,点棒のために! 麻雀同盟店万歳! リーチ万歳! 麻雀帝国店を倒せ!」

 黒棒委員長の絶叫とともに,聴衆のダブハコが吹き飛んだ.狂熱の怒濤が既にマイナス六万点の状況を忘却させ,彼らは座席から立ち上がり,奥歯までむき出してトリューニヒトに追っかけリーチをした.

従業員 「麻雀同盟店万歳! リーチ万歳! 麻雀帝国店を倒せ!」

 無数の腕の林が,借金中の千点棒を空中に高く舞わせた.聴牌の完成の宣言曲.

 そのなかにヤンは文字通り黙然とダマっていた.黒い瞳がひややかに対面の宣言者を見据えている.手牌を伏せ高らかに聴牌の余裕を見せつけていたトリューニヒトの視線が対面の捨牌に落ちた.

 一瞬,その眼光が硬い,不快さを示すものになり口角が引きつった.ただひとりダマったままの若い雀師を視界に認めたからである.一般の雀師なら判らなかったであろうが,彼の捨牌は明らかに聴牌を匂わせていらからである.崇高な即リーの権化,その対面にけしからぬ反逆者がいたというわけだ.

中年の准師 「貴官,なぜ,立直せぬ!?」

 怒号を浴びせたのは,頬は肉厚だが待ちの薄い中年の雀師だった.ヤンと同じ准師の階級バッジを付けている.彼のハコに一瞬視線を転じると,ヤンは静かに応じた.

ヤン 「この店はフリーの店です.立直したくないときに立直しないでよい自由があるはずだ.私はその自由を行使しているだけです」

中年の准師 「ではなぜ,立直したくないのだ」

ヤン 「ダマの自由を行使します」

 自分ながら虚偽的な応答だと思いつつ,ヤンは自模した.キャゼルヌ少師が笑うだろう.テンパイすらしていないのにそこまで虚勢を張れるのは立派だ,と.しかしヤンはここで純粋な子供のようにノーテンをバラす気にはなれなかった.立直することもできず,ましてノーテン立直をしてチョンボ万歳を叫ぶのも嫌だった.トリューニヒトの即リーに同調しなかったがゆえにダマテンと指摘されるなら,仰せの通りとにこやかに応じるしかない.いつでも,テンパイをしているのだと思わせるのは相手へのプレッシャーとなるのだ.

中年の准師 「貴官はどういうつもりで・・・・・・」

 中年の准師がツモ切りした打牌から手を離したとき,対面のトリューニヒトが牌の位置を下げた.軽く両手で役を数える動作をする.それにともなって顔面の血量が減少し,不平が賞賛を圧し始めた.人々のリーチ棒が回収され点数が低くなる.

 ヤンを睨みつけていた中年の准師は,熱いフリコミに不満そうに点棒を震わせながら支払った.


 ――助かったな,とヤンは感謝した.放銃しないためには危険牌を隠して安全牌を打牌し続けることだ.周囲のリーチ棒が刻一刻と数を増していったのをヤンは眼前で認知して,うんざりした.しかしいつ,どのような局でも,三人立直者に突っ張って振り込む雀師はいないのだ・・・・・・



けはしない・・・ No.076
Vol.01-p.061 by wahei


パエッタ 「ヤン准師・・・・・・」

 心点双方の苦痛に責められながらパエッタ中師が若い雀師を呼んだ.

パエッタ 「君が私の代打ちをしろ・・・・・・」

ヤン 「私がですか?」

パエッタ 「健全な師官のなかで,どうやら君だけが最高位戦経験者だ.用牌家としての君のツモを・・・・・・」

 点棒がとぎれ,中師はハコッた.ボーイは帰りのタクシーを着払いで呼んだ.公私混同で店の金は使うなと厳命されているからだ.

ラオ 「高目の放銃でしたね」

 ラオ少弟子が苦笑した.

ヤン 「そうだね」

 中師とヤンの打ち筋の対立を知っていたラオ少弟子は,その返答に納得した表情になった.ヤンは通信盤に歩み寄り,店内放送のスイッチを入れた.

ヤン 「旗卓パーソロンクロスの場がみだれパエッタ総支配人が重大フリコミをおこなった.総支配人の辞令により私が全従業員の指揮を引き継ぐ」

 ここでひと呼吸おいて,店員がリストラの恐怖から開放されるだけの余裕を与える.

ヤン 「心配するな.私が代打ちになったからにはアガれる.クビになりたくない者は落着いて私の指示に従ってほしい.わが点棒は現在のところマイナスではあるが,要はオーラスの瞬間にプラスになっていればいいのだ」

 おやおや,自分も偉そうなことを言ってるな・・・・・・ヤンは苦笑したが,内心だけのことで表面には出さなかった.責任者たるものは,当人はうなだれていてもブラフだけは張っていなければならない.

ヤン 「トビはしない.新たな指示を与えるまで各雀師は不要牌整理に専念せよ.以上だ」

その声は帝国雀卓にも丸きこえだった.

旗卓ゴロンヒルトの席でラインハルトが色のいい牌を軽くツモり上げた.

ラインハルト 「トビはしない.私の打ち筋に従えばアガれるか.ずいぶんと大言壮語を吐く奴がこの店内にもいるのだな」

絶妙とも思えるツモで待ちが5面チャンとなった.

ラインハルト 「この局におよんで,どうマイナスを挽回する気でいるのだ?・・・・・・ふむ,まあいい.おてなみ拝見と行こうか.キルヒアイス!」

キルヒアイス 「はい」

ラインハルト 「面前牌を並べ直す.全雀牌,紡錘陣形をとるように理牌してくれ.理由はわかるな?」

キルヒアイス 「当たり牌を間違えないようになさるおつもりですか」

ラインハルト 「そうだ,さすがだな.清一の待ちは良く間違えるからな・・・」



河雀雄伝説・第91局予告 No.077
OVA-090 by wahei


次回予告 ドラカンに再び 「ウフ♪」 するロイエンタールバカホンの噂

それは,ロイエンタールからラインハルトに,雀荘ハイネセンでの役満に対する挑戦状だった.

ロイエンタールに一巡届かなかったラインハルトは,反対を押し切って,カラテンを維持するが・・・

次回,銀河雀雄伝説,第91局,『發が・・・』
(『発芽』)

・・・暗カン狙いが,また一巡遅れ



河雀雄伝説・第89局予告 No.078
OVA-088 by wahei


次回予告 ・・・・・・

「ペー,スッタン,ドラドラを振り込んだか・・・」

採譜者の放った一言はラインハルトに深い衝撃を与えた.

青天井麻雀の振込み恐怖にさいなまれるラインハルトに追い討ちをかけたのは,ヒルダのメンチンだった・・・

次回,銀河雀雄伝説,第89局,『夏は追加のドラ・・・』
(『夏の終わりのバラ』)

・・・花ドラ一つで,また一翻



河雀雄伝説・第50局予告 No.079
OVA by Carib13


次回予告 ・・・・・・

ラインハルトとの差し打ちに持ち込もうとするヤンは帝国雀士を各個にハコテンにしようとはかる。
そのヤンの打ち方を逆用して八連荘に誘いこまんとするラインハルト。

二人の差しの勝負が迫る。

   次回,銀河雀雄伝説,第50局,『連荘』



切り者揃い No.080
Vol.06-p.084 by Carib13


シェーンコップ 「折角四暗刻と大三元のダブル役満を聴牌しておきながら、
中でない牌をロンして混老頭、混一色、対々和、三暗刻、發、白、小三元の数え役満にしてしまうとは、あなたも物好きな人ですな。」

キャゼルヌ 「麻雀歴十年で悟り得ぬ事が、たった半荘の一局で悟れるものさ。
よき玄人の誕生を期待しよう。」

アッテンボロー 「ですが、私が思うに、ヤン先輩の生涯最大のあがりは今回の役満ですよ。
これこそ奇蹟の名にふさわしい。
本来なら、先輩なんぞが聴牌することのできる役じゃありませんからね。」

ユリアン 「店長、よくこんな人たちを雇って儲けてこられましたね。
裏切り者揃いじゃありませんか。」

ヤン 「私の打ち方はかくして鍛えられたのさ。」




[ HOME | 雀英伝トップ | 銀河雀雄伝説 前ページ 次ページ ]



作品への 叱咤激励・美辞麗句 をお待ちしています♪

[ お客様の掲示板へ ]