少年 |
「あの,ユリアン・ミンツ・・・中牌ですね」
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亜麻色の髪の若者がだまってうなずくと,少年は黒い瞳をかがやかせた.中牌が紅潮し,牌が倒れた.ロンの,それが全身的な表現だった.
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少年 |
「ぼく,以前から中牌のことを知って,いえ,存じあげていました.ロンできて光栄です.ぼくの上家なのに,いろいろ鳴かせていただいて,あの,ドラものってます」
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ユリアン |
「君は何翻?」
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少年 |
「13翻です」
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ユリアンの面前で,点棒が下家へとながれていった.採譜の枚数をめくるにつれてユリアンの点棒は増えていき,黒い字牌を上家にみあげることになった.少牌もない.おだやかな,やさしい,あたたかい,文字をひめた牌.
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ユリアン |
「ヤン大佐,ご存知ですか.きっとご存じないでしょうね」
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ヤン |
「何をだい,ユリアン」
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ユリアン |
「ぼく,本当は大佐の捨牌の東で一巡前に役満上がってたんですよ! やっぱり,ほらご存じなかった」
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ああ,何局か前の自分がここにいる.ユリアンはそう思った.自分はあのとき,対子落とししたヤン・ウェンリーから上がったのだ.今はハコテンとなった,雀荘随一の麻雀師を.あこがれて,形テンしつつ,あのひとから上がりたいと思った.せめて役の一翻なりと,上がりたいと望んだ.その自分が,いま,ひとりの少年に役満の点棒を払わされている.こうやって点棒というものは受けつがれていくのだろうか・・・
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