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アンネローゼのすんなりした優美な姿を部屋の奥に見出すと,ラインハルトはまだ完全には開ききっていない自動ドアを押し開き,小走りに駆け寄った.
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ラインハルト |
「姉上!」
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アンネローゼ |
「ラインハルト,よく来てくれましたね.それにジークも・・・・・・」
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キルヒアイス |
「・・・・・・アンネローゼさまもお元気そうで何よりです」
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アンネローゼ |
「ありがとう.さあ,ふたりとも座りなさい.あなたたちと打つのを何日も前から待っていたのよ」
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ああ,このひとはむかしと少しも変わらない----と,キルヒアイスは思った.その手牌の美しさ,清一狙いは,河底にいたるまで徹底していたものだった.
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アンネローゼ |
「赤五を入れましょう,それと花牌もね.新品の牌だから,あなたがたにガン牌できるかどうかわからないけど」
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ラインハルト |
「・・・・・・そんな事しませんよ」
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嘲笑しながらラインハルトが応じ,手頃な広さのその部屋には緊迫した雰囲気が漂った.牌の精霊がこの空間だけを10年前に戻したような錯覚を,若者たちはひとしく抱いた.
牌の混ぜあう音,新緑色のテーブルクロス,山に積み込まれた飜牌・・・・・・早上がりの幸福のひとつの形がそこにあった.
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アンネローゼ |
「伯爵夫人ともあろう者が雀荘に立ち入るものではないとときどき言われるけど・・・・・・」
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流れるような手さばきで山を積みながらアンネローゼは微笑した.
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アンネローゼ |
「何と言われてもこれが楽しいものだから仕方ないわね.あまり全自動に頼らず自分の手で積むのがね」
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サイコロが振られ,ドラが返された.アリアリルールに裏スジの通らない相手,心が震えるような時が過ぎていく・・・・・・
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